★第一話★ どうやら運命は僕には優しくないらしい

 

 

 

 

何故こんな状況になったのかよく分からない。

左を見ると駄菓子屋に子供が群がっている。

はたまた右を見れば一軒屋が立っている。

一見普通の光景のようだが前を見るとそれは普通ではなくなる。

目の前には一つの建物があり看板にはこう書かれている。

『究極温泉!!明けの明星金星!!』

とでかでかと書かれている。この名前をつける趣味はどうかしている。

だが、知人に教えられた唯一の親戚である叔母が住んでいるところが“ここ”なのである。

「間違ってないよな?」

僕は再び住所をメモした紙を見る。

だが、間違ってはいない……。

しかたがないので入ってみる。

自動ドアの鈍い機械音とともに綺麗に整備された温泉企業としてはなかなか整ったところだった。

「いらっしゃい……」

いきなり死にそうな声で出迎えてくれたのは経営者のような人。

見た感じ二十代後半だと思われるような顔立ちだった。

「あ、あの〜倉島友子(くらじまともこ)さんっていらっしゃいますでしょうか?」

間違えたと思ったが一応住所が一致していたので聞いてみた。

「あ〜それなら私だけど……何か用?」

嘘だろ……。

この人が僕の親戚!?

このちょっと低い声だったら元暴走族みたいだから。

「ええと……僕、知人の紹介で叔母がいるって聞いてここに来たんですけど」

「名前は?」

「柳沢月斗(やなぎざわつきと)っていいます」

「あ〜連絡は受けてるよ。私があんたの叔母だ」

「マジ?」

「マジ」

僕は正直落胆した。こんな人が叔母だったとは……。

「両親が事故死したからこっちに来たんですけど…」

「うん、聞いてる。部屋は一応用意しておいたから。そこを使って」

「はい、あと、仕事とかは?」

「マッサージ師を頼むよ。あんたうまいんだろ?」

「まあ、一応高校で勉強を受けていましたが……」

「じゃあ、頼む。給料は出すから」

それは割りのいい仕事だ……。

って違う!!免許持っていない人間に温泉企業のマッサージ師やらせるな!

「俺、まだ免許取得してませんよ。いいんですか?」

「成績はどうだったんだ?」

「まあ、それは上位の方でしたけど…」

これは実際嘘ではない。

東京の方に昔は住んでいたが成績は140人いるなかで二十人以内に入る成績だった。

友人からは褒められ女子からは好意をもたれてしまう始末。

告白なんて一週間に一回のペースでやってくる。

手紙だったり他人からだったり本人からだったり……。

まあ、色々あったわけで…。

「じゃあ、部屋に行ってます」

なんか色々疲れた……。

叔母がこんな変人だったとは……。

でも、普通じゃないのかも、温泉企業では普通のことなのかもしれない…って違うだろ。

どこの温泉企業がマッサ−ジ免許の持ってないただの高校生をマッサージ師に任命するか?

それがここ、温泉………なんだっけ?

そうそう、『明けの明星金星』だ。

でも、これが僕の人生にとってかなり重要なことになるとはここに来た当初思いもしなかった……。

 

 

二日たっても一行にマッサージの予約が来ないので叔母さんに聞いてみた。

「何で温泉に浸かったり宿泊目的で来る人は多いのに何故マッサージの仕事が来ないんですか?」

来なきゃバイト代が0円になってしまう。

高校生にとってバイト代0円ははっきり言って危機だ。

「それはなんにも宣伝がないからじゃないのか?温泉は宣伝をHPや看板を作っただけで結構来たぞ」

妙に男勝りな声が気になったがしょうがないのでこの店のHPに『金星の究極マッサージ』という名前で掲載した。

叔母さんに勝るとも劣らないネーミングセンスだ。っていうかうつったか……。

そしたらどうだ?

その又二日後にマッサージの予約が殺到した。

マッサージができるのは僕一人なのでなんとか一週間に三日という日々制にしてもらった。

マッサージというのもなかなか疲れる。

それで高校にも通わなきゃいけないというのは正直骨が折れる。

そんな中さらにストレスが溜まる出来事が僕の身に降りかかった。

 

 

それはある日の学校での出来事。

廊下を新しい友人である坂井勇一(さかいゆういち)と一緒に歩いているといきなり走ってきた何かを激突した。

「いてて!!」

「いたっ!!」

僕はすぐに起き上がろうと思ったがあるものが目に飛びこんできて少し唖然とした。

ぶつかってきたのは女子生徒で僕は運がいいのか悪いのか分からないがその女子生徒のスカートの中…つまりパンツを見てしまったのだ。

そのことに気がついて「あっ…」と僕が声を漏らしたらスカートのすそを直していきなり僕に歩みよって

「あんた……パンツ見たでしょ?」

案の定こう聞かれた。

「みてない!」と言いたかったがさすがに嘘はつきたくなかったので素直に謝った。

「ご、ごめん……偶然頭をあげたら視界に入っちゃって……」

「スケベ」

「はっ?」

言い返そうとした途端まさにチーターのごとくその女子生徒は走り去ってしまった。

唖然とする僕に勇一はこういって来た。

「朝っぱらからラッキーなやつ……」

お前殺すぞ…。

僕はこいつをいつか必ず殴ることを心に誓った。

しかし、あとから勇一聞いたことだがあの女子生徒はおなじクラスだというのだ。

言いふらしてなければいいんだけどなぁ……。

だが、僕の予想に反して今日一日その話題は男子、女子みんな出さなかったのだ。

まあ、単に知らなかっただけだと思うが……。

 

これだけならまだ別に不運じゃないさ。いや、むしろパンツを見たということで他の男子に言わせたら幸運なことなのかもしれない。

だが、僕にとっては確実に不幸だった。

 

 

勇一と帰り道を別れた僕は温泉屋金星に帰る前に本屋によることにした。

金星から一番小さいがなかなか大きな本屋だった。

僕がほしかったのは今日発売の人気の小説の続編だった。

残り一冊というかなりレア的な状況でその小説はあった。

僕が手を伸ばした瞬間誰かの手と重なった。

僕は少し驚いて手を引っ込めた。

そして理由は分からないが誤った。

「「す、すいません」」

相手もおなじ想いだったのか声が少し上ずっていた。

だが、下げた頭を上げるとみたことのある髪の毛の色と髪型だった。

「「あー!!!」

僕とその人は指差しあった。

なんと見てみるとその人はさっき激突した女子生徒だった。

「あんた!!今朝のパンツ覗いたスケベ野郎じゃない!!」

「なっ!!あれは事故だろ!!それに僕にぶつかってきたのは君の方じゃないのか!?」

「なんですって!?」

「なんだよ!?」

そのまま言い合いを続けても別によかったけど周りからの視線が痛い。

結局狙っていた小説は買えずにただ言い争いをするために場所を公園に変えた。

 

 

「あんた名前は!?」

言い争いがはじまりそうな声だった。

とりあえず名乗っておこう。

「僕は柳沢月斗、君と同じクラスなんだけど……」

「あ〜この前の転校生か……私は流川雪恵(るかわゆきえ)よ。当然知ってるでしょ?」

「う〜ん…」

「もしかしてまだ名前全部覚えてないの?」

「うん、ごめん」

早くも負けそうな予感。

「それにあんたの所為であの小説買い損なったんだから!」

「それは僕もおなじだよ!」

「なんですって!?」

「なっ………もう、よそう。これじゃあ言い争ったってどうにもならないよ。『僕は君のパンツを偶然にも見てしまった』それでいいじゃないか…まあ、よくないだろうけど」

「よくないに決まってるわ!!それじゃあ私にとって不利じゃない!」

「いや、不利とか有利とかそういう問題じゃ……」

「いいえ!このままじゃ納得いかないわ!」

「じゃあ、どうするんだよ!」

気づいたらまたもや言い争いになっていた。

「分かったわ!!じゃあ、こうしましょう!」

「どうしましょう?」

冗談半分でこう言ったら一発ぶん殴られた。

「とりあえず、あんたなんかおごりなさい!それで済ましてあげるわ」

「はぁ〜分かったよ。でも、いったん家に帰らせてもらうよ。小説一冊買うお金しかないから」

「わかったわ」

 

僕たちは公園を出て行った。

思えばこのときクレープでもごちそうしていたらあんなことにはならなかったかもしれないな〜。

 

 

だんだん金星に近づくにつれて流川が変な顔をしだした。

そりゃあ、ここ一番とまではいかないが温泉屋金星に向かっているのだから。

「ねえ、あんたの家って…まさか…」

ちょうどそのとき僕は金星の前で止まった。

「ねえ、マジ?」

どうやら気づいてしまったらしい。

僕の家がここ金星であるということが……。

「そう、マジ」

しばらく嫌な沈黙が続いた。

だが、僕はそれを無視して金星に入った。

「いらっしゃ……って月斗かそっちの子は……?」

「何も聞かないでください。ちょっと複雑なことになっちゃって……」

「ああ、そうか。まあ、いいけど」

僕は部屋にダッシュで財布を取りに行こうとしたが流川にとめられた。

「ちょっと、待った」

「えっ?何?」

「ここの一番うまい料理をタダで食べさせてくれたら手をうってあげてもいいわ」

「…………」

僕は助けてと友子さんにアイコンタクトしたがしかとされた。

もう、なんだかどうでもよくなってきたので仕方なくOKした。

「やった!!」

「ただし、僕のつくる料理だから保証できないよ」

「それでもタダならオッケ〜!」

悔しいけどそう言って笑う流川の顔はなんとなく可愛かった…。

 

 

 

続く!!