新世紀エヴァンゲリオン 皆が居る未来のために
第十五話 ぬくもりをその唇に・・・
葛城家
アスカとミサトはシンジが作り置きしたであろう朝食を食べていた。
「シンジのやつどうしたのかしら」
「あら〜アスカ、シンちゃんのことが気になるの?」
(あの同居?計画の一件以来シンジはアスカとミサトと一緒に住んでいる)
「そ、そんなわけないじゃない!!」
「ほんと〜?」
「ほんとよ!!ほんと!!もういちいちからかわないでよね!!」
そのとき襖が開きシンジはスポーツバッグを肩から掛けて出てきた。
「あ、シンジ」
「・・・・・ミサトさん、ちょっとでかけてきますね」
「ん・・・・いってらっはい」
「ちょっとシンジどこいくのよ!?」
「ちょっとね・・・・・・・」
ドアを開く鈍い音とともにシンジがでていく。
「ねえ、ミサト、シンジはどこにいったの?」
「う〜ん・・・・・あとでシンジ君に聞いてみなさい」
「教えてくれたっていいじゃない!!ケチ!!」
果たしてシンジはどこへ行ったのか・・・・。
墓地
ここはセカンドインパクトの後に亡くなった人たちを埋葬している墓である。
シンジはここを訪れて自分の母親の墓を探していた。だが、迷う事もなくすぐにそれは見つかった。
「父さん・・・・・」
「シンジか」
シンジは持っていた花を墓の前に供える。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「変なこと聞くようだけど・・・・父さんは母さんのこと愛していた?」
「無論だ・・・」
「・・・・・そっか、じゃあ母さんはきっと幸せだったんだね」
「そうだとうれしいがな・・・・・・・・」
しばらく沈黙が続く。
「シンジ・・・・このまえ渡したロケットは持っているか?」
「うん、大切にしてるよ」
「そうか・・・・・・実はそれはユイの形見なのだ」
「えっ・・・・・・・・・」
「ユイは死ぬ前にわたしにそれを預けたのだ」
「そんな大事なもの・・・・俺がもらっちゃっていいの?」
「お前が持っていたほうがユイが喜ぶと思ってな・・・」
そのとき首から下げているロケットが太陽の光を発射して神々しく輝いた。
「時間だ、先に帰るぞ」
「うん、父さん」
「なんだ?」
「ネルフの電気系統の正・副・予備の三系統のコードがすべてそろっている通路の監視カメラを増やしておいたほうがいいと思う」
「何故だ?」
「前の世界では停電が起きたんだ。だから、非常回線に直結させたカメラを設置しておいたほうがいいよ」
「わかった・・・・」
そのときゲンドウの後ろにヘリが降りゲンドウはそれに乗って飛びたった。
シンジはここにいつまでいてもしょうがないので家に帰った。
その頃アスカはヒカリと一緒にショッピングをしていた。
再び葛城家
「何をしようにも・・・何もしたくないんだよな」
シンジは一人呟いた、そして部屋に向かいベッドに横になった。
「こういうときは寝るのが一番・・・・・・・・・・・・なのか・・・・・・」
そのときふとシンジは思い出した。
(そういえばこんなときだったな前の世界でチェロを弾いたのは)
かつてシンジは前の世界でチェロを弾いたのだ。墓参りをしたあと・・・・・。
(その夜アスカと・・・・・・・・・)
前の世界ではその夜シンジとアスカはキスしたのだった。
(今回はあんな風にはならないよな)
シンジはまだ見ぬ未来に少し不安を抱いていた。
「弾くか・・・・・」
シンジはチェロが入っている箱に手を伸ばす。チェロを箱から取り出し少し弾いてみる。
♪〜♪♪〜♪〜♪〜
「少し調律が必要かな」
シンジはそのあと調律をしてキッチンにある椅子を居間まで持ってきてそこに座りチェロを構える。
♪〜♪♪〜♪〜♪〜♪♪♪〜
シンジのチェロは正確に音を出している。
「・・・・・・・・・・・・・」
♪〜〜♪〜〜♪♪〜
美しい音色が部屋中に響き渡る。きっと第三者がこれを見れば開いた口が塞がらなくなるだろう。
「たっだいま〜・・・・・・・・?」
その時この静寂でチェロの音色だけが漂う部屋に第三者が現れたこの部屋のもう一人の住人アスカだ。
(なんだろう、この音・・・?)
アスカは部屋に入ったのだから当然シンジのチェロの美しい音色が聞こえる。
「誰だろう・・・・シンジかな・・・・」
アスカは小さくつぶやき玄関の廊下からそっと居間を覗いた。そこにはチェロを真剣に弾くシンジの姿があった。
アスカが帰ってきて5分ぐらいで演奏は終わった。
「ふう・・・・・・・」
シンジが一息つくと後から『パチパチパチパチ』と小さい拍手が飛んできた。
「あんた、すごいわね・・・・・・」
「そう?」
「うん、あたしが言ってるのよ。少しは自信もちなさい」
そう言ってすれ違い座間にシンジのおでこにデコピンを『ピチッ』っと軽くやる。
シンジは額を抑えながら部屋に行ったアスカに叫ぶ。
「それより、随分早かったね・・・・」
「うん、別に買いたいものはなかったから」
「そう」
「それに・・・・・・二人の邪魔はしたくないしね」
「えっ?」
「途中、2ばかに会ってさ、うまく相田だけひっぱてきて鈴原とヒカリの二人きりにしてあげたんだ」
「ふ〜ん・・・・・・あそうだ、昨日の余ったプリン食べる?」
(いつのまに作ったんだっていう疑問はなしですよ?)
「うん、食べるわ」
シンジは冷蔵庫からプリンを2カップ取り出しテーブルに置いた。
「それにしてもあんたのさっきのなかなかやるじゃん!」
「えっ・・・さっきのってチェロのこと?」
「うん、いつからやってたの?」
「う〜ん・・・・・・5歳ぐらいのときからかな」
「へぇ〜『継続は力なり』か・・・・・・少し見直しちゃったあんたのこと」
「・・・・・・・・・・・聞かないの?どこにいってたか?」
「・・・・本当は聞くつもりだったけどさっきの演奏聞いたら聞く気もなくなったわ」
「そっか・・・・・・」
「・・・・・聞いたら教えてくれるの?」
「別にかまわないけど・・・・」
「なら、教えて」
シンジは意を決したように
「・・・・実は母さんの墓参りに行ってたんだ」
「あんたのママの?」
「うん、俺も小さいときに母親をなくしていたから・・・・」
「そうだったの・・・・・・・・ごめん、興味本意で聞いたりして」
「いや、いいんだよ・・・・どうせ隠す必要もない」
結婚式場
そのころミサトはリツコとともに知人の結婚式に出席していた。
ミサトとリツコがついているデーブルにはもう一人ぶんの席があった。加持の席である。
「ふ!!」
突然ミサトが加持リョウジと書かれた札を吹き飛ばす。
「ったくあいつなにやってんだか!?」
「よしなさい、デートのときはちゃんと時間通り来ていたんでしょ?」
ミサトは首をふり言葉を放とうとした瞬間加持出現(?)
「やあ、今日はふたりとも美しい」
そう言って吹っ飛んでいた札を立て直す。
「何よ遅刻してきたくせに・・・・ほら、ネクタイ曲がってる!!」
ミサトはそういいながらもちゃんと加持のネクタイを直す。
「こりゃあどうも」
そこでリツコが一言。
「あなたたち夫婦みたいよ」
加持はミサトに寄り添いながら
「いいこと言うね、リっちゃん」
対してミサトは
「誰がこんなやつと!!」
とあきれながら言ったのであった。
再び葛城家
シンジとアスカは夕食を食べて思い思いに過ごしていた。シンジはSDATを聞いていてアスカはテーブルに突っ伏してぼーっとシンジを見ている。
すると突然シンジの方を向きこうつぶやいた。
「ねえ、シンジ・・・・・・・・・キス・・・・しようか?」
「えっ・・・・・・・・何?」
シンジは耳からイヤホンを外すと聞きなおした。
「キスよ、キス・・・・・・」
「どうして・・・・?」
「したことないから・・・・・・」
「・・・・・俺なんかでいいの?」
「・・・・・シンジとしたい・・・・・」
「えっ・・・・!?」
シンジはこのとき気づかなかった。アスカの気持ちがすでに加持にはなくシンジに向いていたことに・・・・。
「そ、それってどういう・・・・」
「そんなのいいから、しましょう・・・・・それとも私とじゃいや?」
アスカがにらみつけるようにシンジを見る。
「う、ううん・・・・・分かったよ・・・・」
シンジは立っているアスカに向かいあうように立つと顔を近づけた。
「ま、待って・・・・」
「えっ・・・・どうしたの・・・・やっぱりやめとく?」
「ち、ちがうの・・・歯磨いた?」
「うん・・・・」
「じゃあ、いいわ」
シンジはアスカの頬に手を添えた。一瞬アスカは『ドキッ』っとしたが顔を少し上に傾けて目を瞑る。
シンジも近づけながら徐々に目を瞑りそっとアスカの唇に自分の唇をあてがう。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
アスカは妙な気分になっていた。
(なんだろう・・・この気持ち・・・・・・不思議な気持ち・・・・頭がとろけそう・・・)
シンジは恐る恐るアスカの背中に自分の手を回した。
(!!・・・シンジが私の背中に手を・・・・・早くどかなきゃ!!・・・・・でも・・・・)
(何故だろう・・・・もっと、こうしていたい・・・・)
だが、それにも終わりが来る。シンジは息が続かなくなるのを見越して唇をそっと離し耳元でこう呟いた。
「アスカ・・・・悪いけど・・・・俺、お前のことが・・・・す、好きだ・・・」
アスカには確かにそう聞こえた。
アスカは動揺した顔になる。当然二人の顔は真っ赤だ。
「し、シンジ・・・あ、あの・・・・そ、その・・・・・・・・・」
アスカは知らずに語尾が小さくなる。
「返事、すぐじゃなくてもいいよ・・・・・でも、返事がOKならうれしいな・・・・・・・おやすみ、アスカ」
シンジはそう言うと自分の部屋に入りとこに入った。
居間には顔を紅葉させ呆然と立っているアスカ一人が残った。
次回予告
第壱中学校に新たな転校生が入ってきた。
それはシンジの対の存在だった。
次回 第十六話 自由という名の死神の翼